あまい誘惑

バルフレアの憂鬱

 

ドラクロア潜入直後に帝国兵との戦闘を覚悟していた一行だった。

しかし、実際に所内に足を踏み入れ、帝国兵どころか、人1人歩いていない研究所の静寂さに一行は驚いていた。

「・・・静かすぎる」

騎士として、充分に用心して来たバッシュなだけに、あまりの所内の静けさを逆に警戒する様子だった。

「・・・ああ。妙だ。衛兵がいない分けないんだが」

「オレたちの運がいいってことだろ?」

警戒するバッシュとバルフレアに対し、気楽な様子でヴァンが言った。

しかしバルフレアには、気楽に構えるヴァンほどの余裕は微塵もなかった。

思っていた通り、奥に進むと所々に負傷した衛兵が横たわっていた。

途中、シドの研究所を見つけたので、一行は衛兵がいない事をいいことに、部屋に侵入した。

 

部屋の中は、荒らされていた。 本棚は倒され、何かの資料が床に散乱していた。

「・・・・先客があったんだわ。私たちより荒っぽいような」

フランが、倒れた本棚を調べながら言った。

「そいつの狙いも破魔石か?」

ヴァンもようやく、ことの重大さに気づいたようで、散らばってる資料を見つめていた。

「・・・・あれから6年か・・・・。なぁ、ヤクト・ディフォールで何があった?何があんたを変えたんだ?」

そう言って、悲しそうな表情をするバルフレアの後ろ姿をアーシェが見つめていた。

そのとき、研究室の外が急に騒がしくなり、多くの足音とともに帝国兵の声が聞こえて来た。

「上だ!上に向かったぞ!5番、8番隔壁降ろせ!逃がすんじゃないぞ!」

「気づかれた?」

その騒ぎを聞いてヴァンが不安そうに言った。

「たぶん”先客”の方よ。今動くのは危険だわ」

「敵さんの混乱を利用すればいい。とにかくさっさとシドを探す。それだけだ」

バルフレアはフランの言葉を遮るように、研究室を出て行った。

 

「先客」が衛兵達を倒しておいてくれたお陰で、一行はスムーズに上層へ進む事が出来たが、得体の知れない先客に

バッシュは神経を張りつめていた。最上階に昇るエレベーターに乗り、ドアが開いたその時・・・・

バッシュは一行に襲いかかって来るものの殺気を感じとった。反射的に、一行を守ろうとして剣を抜いた。

「先客」の剣がバッシュに剣に受け止められた。

バッシュが「先客」を睨みつけた。

「先客」は、バッシュの剣の腕が並外れて強かったので、衛兵以上の身分の者であることにすぐ気づき 剣に込める

力を抜いた。

「・・・すまんな。シドの手先ではなさそうだ」

バッシュも、事の事情をようやく掴み、「先客」から離れた。どうやら、先客の狙いはドクター・シドのようだ。

「そうか。君が先客だな」

バッシュの言葉に応えるように、上の方から男の声が聞こえて来た。

「ああ。惜しい男ではあるがな。知りすぎていただろう?」

バルフレアの表情が変わった。

「先客」がその声の聞こえた方へ駆け出していったので 一行もその後に続いた。

 

「シド!リヴァイアサンをやったのは神授の破魔石だなまだ、あんなことを続けているのか?!」

目の前に見えて来た初老の男に「先客」は言った。 どうやらその初老の男がドクター・シドのようだ。

一行も、剣を構えた。

「止めてみせるか。身のほど知らずめ」

「強がってんじゃねぇよ、てめぇの歳を考えろ!」

たまらずバルフレアがシドの前に駆け寄った。

シドにとっては数年ぶりにあう息子だ。 しかし彼は冷たい口調で

「いまさら何しに来た?空賊風情が!」

「『黄昏の破片』をいただきにさ。空賊らしくな」

「あんなものがほしいのか。つまらん奴だ」

シドはそう言って、息子に幻滅した様子だったが、

「ん?・・・なんだ?」

と、誰かに耳打ちされたかのように、バルフレアの側で心配そうに2人のやりとりを見ていたアーシェに気づいた。

「貴様が、ダルマスカの王女か!ふん、見込みがなくもなさそうだ。試そうと言うのだな?」

シドが、アーシェではなく、宙を見つめて誰かに話しかけるようだったのでアーシェは眉をしかめた。

「何を言ってるの・・・・?」

「試してやろうと言っておる!石の力がほしいのだろう?」

アーシェは、自分の心の闇の部分が、この初対面の男にも見透かされていたことに、ただ言葉を失うばかりだった。

「奴の話に耳を貸すな!利用されるだけだ!」

動揺するアーシェに向かって「先客」が言った。 しかしシドは、アーシェを試そうとする手を止めようとはしなか

った。 体中から、ミストが立ちこめ、ナゾの影が見え隠れしているのをフランは見た。

ああ・・・ミュリンやベルガと同じ・・・

「・・・人造破魔石よ!」

フランはバルフレアに向かって叫んだ。

「あんたもか・・・・あんたもなのか・・・・・?」

バルフレアは絶望の淵に立たされていた。

かつて人造破魔石により人間でなくなってしまった者を彼も見て来た。そして、その者が行き着いた末路も。

自分の父、シドも、彼らと同じ末路をたどるのか・・・

やりきれない思いをぶつけるように、バルフレアは父に立ち向かっていった。

しかし、シドは屈する事を知らなかった。

まるで何かの結界に守られているようだ。

「先客」がシドにとどめを刺そうとしたが、何かに跳ね返されて、体を床に叩き付けられてしまった。

危機一髪を逃れたシドは、ホッとため息をつき、また、宙に向かって喋りだした。

「手間をかけたな、ヴェーネス」

そうして、初めて姿を現した「ヴェーネス」を見たバルフレアは心底驚いていた。

少年の頃、シドが幻覚を見て話しかけていた相手だと思って来た「ヴェーネス」。父の頭がおかしくなってしまった

のだと、バルフレアを幻滅させていた存在が今、実際にバルフレアの目の前に姿を現したのだ。

「ヴェーネス・・・・こいつがヴェーネスだと?!」

「アーシェ・バナルガン・ダルマスカ!貴様、あくまで力を追い求めるか。破魔石がほしくてたまらんかっ!?」

バルフレアを無視し、シドはアーシェに「黄昏の破片」を見せびらかした。

アーシェの表情がどんどんこわばっていくので、シドはなおも意地悪く続けた。

「図星か?図星だな?それでこそ覇王の末裔だ!

ならばギルヴェがンを目指せ!新しい石を恵んでもらえるやもしれんぞ?」

喋り終わるか否かの時に、どこからか小型の飛空挺が下りて来た。

シドが、何もかもを知っている様子で、笑いながら飛空挺に乗ろうとしてるので、 アーシェは理由を聞きたくて、

ムキになって引き止めようとした。

「なんのつもりで、そんな話を?!」

「・・・歴史を人間の手に取り戻す・・・。わしもギルヴェがンに向かう。追って来い!空賊」

シドは、バルフレアにそう言うと、さらに高笑いをして飛空挺に飛び乗った。

そうして、飛空挺はあっという間に飛び立って、彼らの視界から消えてしまった。

「・・・・ふざけやがって」

バルフレアは悔しそうに言った。

「歴史を人間の手に取り戻す」

この言葉の本当の意味について、彼はこのとき、気づく事が出来なかった。

そして自分が父親を誤解していた事も。

 

状況が落ち着くのを見計らっていたのか、一行が、ようやく剣を鞘におさめると、シドの言葉に打ちのめされていたアーシェの側に「先客」が近づいて来た。

「先ほどは失礼した。ダルマスカのアーシェ王女だな」

シドの会話の一部始終を聞いていたのだろう。彼は改めて、王女であるアーシェにうやうやしく頭を下げた。

「私はバーフォンハイムのレダス・・・・空賊だ」

「空賊」というフレーズにバルフレアもヴァンも敏感に反応していた。

 

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