あまい誘惑

ルース魔石鉱

 

魔石鉱の入口に辿り着いた一行は、用心深く辺りを見回した。

「ここの警備は帝国軍か?」

一番、慎重になっているバッシュが口を開いた。

「・・・いえ。ビュエルバ政府は特例を除いて、帝国軍の立ち入りを認めていません」

自分が答える事が当然のようにラモンが答えた。

バッシュとバルフレアは怪訝そうに顔を見合わせた。

「では、行きましょうか」

どこか大人をからかうような風情のあるラモンは得々として彼らをリードしていた。

 

オンドール公爵はビュエルバの領主だった。

彼の立場は、ビュエルバを取り巻く小国から見ると、帝国寄りに見えなくもない。

念のため、用心はしなければならない人物だと、バッシュもバルフレアも懸念していた。

そのオンドールは、ビュエルバを訪れていたジャッジ・マスターのギースを魔石鉱に案内しているところだった。

彼らの話し声が聞こえてきたので、ラモン率いる一行は、息を潜めた。

彼らは魔石をめぐっての両国の力関係を探りあっているような様子だった。

彼らが立ち去るのを見届けると、ラモンが説明するような口調で話を始めた。

「ビュエルバの公爵、ハルム・オンドール4世。

ダルマスカが降伏したとき、中立の立場から 戦後の調停をまとめた方です。 帝国よりって見られてますね」

バルフレアは、ふぅん、と呟いてラモンに近づいていった。

「・・・・よく勉強してらっしゃる。どこのお坊ちゃんかな」

ラモンはバルフレアに道を妨げられたが、その表情は変わらなかった。

「どうだっていいだろう。パンネロが待ってるんだぞ」

先ほどからラモンを疑って、歩くスピードが遅くなっているバルフレアに苛立って、ヴァンが口を挟んできた。

「パンネロさんって?」

ラモンが興味深く耳を傾けた。

「友達。さらわれてここに捕まってる」

待ちきれない、と言わんばかりにヴァンは奥へ向かって走り出した。

ラモンもそのあとに続いた。

 

暗闇の中で怪しい光を放つ魔石は、あまりにも美しかった。

ラモンは感嘆して、無防備に魔石の奥へさらに足を進めた。

「これを見たかったんですよ」

そう言って、懐から、何かのカタマリを取り出した。

「なんだ?」

ヴァンが訪ねた。

「破魔石です。人造ですけど」

不思議そうな顔をするヴァンに向けて、ラモンは言葉を続けた。

「普通の魔石とは逆に、魔力を吸収するんです。人工的に合成する計画が進んでいて これは、その試作品。

ドラクロア研究所の技術によるものです。やはり、原料はここの魔石か・・・・」

ドラクロア、と言う言葉に敏感に反応したバルフレアは

「用事は済んだらしいな」

と、今度は完全にラモンの進行を妨げ、彼に顔を近づけた。

「あ、ありがとうございます。のちほどお礼を」

ラモンははじめて動揺して、お礼、と言う言葉でごまかそうとした。

「いや、今にしてくれ。お前の国までついて行くつもりはないんでね」

そういって、さらにラモンに詰め寄った。

「破魔石なんてカビくさい伝説、誰から聞いた?なぜ、ドラクロアの試作品を持ってる?

あの秘密機関と、どうやって接触した?・・・・・お前、何者だ?」

戸惑うラモンよりも、ヴァンの知らない一面を見せるバルフレアにたいして ヴァンは不思議に思った。

バルフレアはいったい何を言っているのだ?

そこへ、バルフレアが現れるのを待っていたバッガモナンたちが現れた。

「待ってたぜ、バルフレア」

聞き慣れているが、聞きたくもない声にバルフレアはうんざりして バッガモナンの方に身体を向けた。

「会いたかったぜ?さっきのジャッジといい、そのガキといい、金になりそうな話じゃないか。

オレも一枚、噛ませてくれよ」

嫌らしい口調でバッガモナンは言った。

「頭使って金儲けてツラか。お前は腐った肉でも噛んでろよ」

バルフレアに続いて、ヴァンがバッガモナンに攻めよった。

「この野郎!パンネロはどこだ?」

「あぁ?エサはもう必要ないからな。途中で放してやったら、泣きながら飛んで逃げてったぜ」

そのとき、隙を狙っていたように、ラモンがバッガモナンに向けて破魔石を投げつけた。

バッガモナンがひるんだ瞬間、ラモンはバルフレアからもバッガモナンからも逃れ、

破魔石を拾って、魔石の外へ走り出した。

ヴァンたちも、そのあとに続いた。

「逃がすかぁ!」

バッガモナンたちはバルフレアのあとを追った。