あまい誘惑

指輪と引き替えに

 

アルケイディア帝国最強とも言える戦艦リヴァイアサンが「暁の断片」の恐るべき破壊力により撃沈した後、

アルケイディアの元老院、皇帝共々、敵国ロザリア帝国の攻撃を恐れていた。

元老院たちはリヴァイアサン撃沈のきっかけとなった暁の断片をヴェインが安易に扱ってしまった事を裁くべきと、

皇帝に示唆していた。

グラミス皇帝はヴェインをかばうべきか、自分が皇帝の座から退くべきかの選択に迫られていたのだった。

元老院たちはそんなグラミスに対し、ラーサーがヴェインの代わりを務めるのでは、と提案した。

以前より、元老院たちがまだ幼いラーサーに目をかけ、そそのかしている事をグラミスは不安に思っていた。

元老院たちはラーサーの父であるグラミスの親心を察し、自分たちが帝国に支える以上、誰が皇帝になろうとアルケ

イディアは安泰であることをグラミスに約束した。

グラミスは元老院たちの自分への心遣いを汲み取り、ヴェインを裁くために帝都に戻す事を決意した。

 

一方、リヴァイアサンが跡形もなく消滅したお陰で、暁の断片の存在も、アーシェ生存の事実も公表される事になら

ずに済んだ。

その事実を知るものは、全てリヴァイアサン撃沈に巻き込まれ、この世から消滅してしまったからだ。

 

当のアーシェ達はダルマスカのムスル・バザーの奥にある解放軍のアジトで次なる行動を考えていた。

みんなが真剣に話し合っている中、アーシェだけは奪い返した暁の断片をぼんやりと見つめながら、亡き夫ラスラの

形見でもある結婚指輪を指先で愛おしそうにさすっていた。

その様子を先ほどからバルフレアが見つめていた。

しかしアーシェはそんな彼の視線に気づきもしなかった。

「帝国の戦艦を消し飛ばしたのは、『暁の断片』なんだな」

バッシュが言った「暁の断片」という言葉で、ようやくアーシェは顔を上げた。

「察しがいいな」

アーシェの様子を注意深く見つめながらバルフレアが答えた。

「あの桁違いの破壊力・・・・心当たりがある。アーシェ様もご存知のはずです」

「・・・・・・ナブディス」

アーシェが独り言のように答えた。

ナブディスとは旧ナブラディア王国の都、ラスラの故郷だった。

戦争中に帝国が突入した直後に、原因不明の大爆発で 敵味方もろとも、一瞬にして消滅してしまった。

リヴァイアサンの消滅と非常によく似ている、とバッシュは察していたのだ。

そして、ナブディスにもレイスウォール王の遺産のひとつ、「夜光の破片」が伝わっていた。

「・・・・破魔石か。奴らが夢中になるわけだ」 バルフレアが言った。

「あの戦争も、調印式の罠も、ヴェインはこの力を狙って!

レイスウォール王の遺産、破魔石は帝国には渡せません」

「・・・・とっくに渡っている。

『黄昏の破片」に、たぶん『夜光の破片』も。でなきゃ人造破魔石なんて合成できるか」

アーシェの言葉にバルフレアが皮肉っぽく言った。

アーシェはきっとしてバルフレアを見つめた。

「では『暁の断片』の力で帝国に抵抗するだけです。ダルマスカは恩義を忘れず、屈辱を忘れず、刃を以って友を助

け、 刃を以って敵を葬る。私の刃は破魔石です。死んでいった者のため・・・・・帝国に復讐を!」

アーシェの言う恩義とは、ナブディスへの同盟心であり、

同盟の象徴として結ばれた夫への恩義、 そして復讐とは、自分の祖国と夫を奪い去った帝国への恨みから生じる思

いであった。

あまりにも真剣な目で語るアーシェに対し、ヴァンは率直な疑問を投げかけた。

「暁の断片で抵抗するって、使い方、わかるのかよ」

アーシェははっとしてヴァンを見つめた。

「・・・・ガリフなら、あるいは」

仲間たちの会話を先ほどから黙って聞いていたフランだったが ここへきてようやく、その口を開いた。

「古い暮らしを守るガリフの里には、魔石の伝承が語り継がれているわ。

彼らなら、破魔石の声が聞こえるかもしれない。危険な力の囁きが・・・・」

「危険だろうと、今必要なのは力です。無力なままダルマスカの復活を宣言しても ・・・・帝国に潰されるだけ。

ガリフの里までお願いします」

フランの言葉に応えるようにアーシェが言った。

フランは特に顔色を変えもせず静かな口調で続けた。

「オズモーネ平原を超えた先よ」

「遠くないか?」

バルフレアのその言葉はアーシェに対し言ってるのか、フランに対し言っているのかわからなかった。

けれどアーシェには自分に向けられて言われているように感じ

「・・・また、報酬ですか?」

と、思わず尋ねた。

「・・・・話が早くて助かるね」

ちょっとふざけたような、からかったような表情でそう言ったバルフレアだったが、

急に真顔になってアーシェを見つめた。

「・・・・・そいつが、報酬だ」

バルフレアはアーシェが、何かと言うとさするクセのある結婚指輪を指し示した。

アーシェがビックリして、そして困ったように答えた。

「これは・・・・・」

「嫌なら断る」

躊躇するアーシェに対し、バルフレアはきっぱりと言った。

アーシェは、何故バルフレアが自分の結婚指輪を欲しがるのかわからなかった。

このときは、わからなかった。

しかし、彼女は自分の直感も信じていた。

バルフレアは自分を裏切らない。

そして、彼を信じ、こうして一緒に旅してきた。

なぜ、自分がこんなにも彼に引かれていくのか

19歳のアーシェにはわからなかった。

こんな感情は夫ラスラにも抱かなかった。

心の奥底から湧き出るような、熱く、激しい感情・・・・

アーシェは黙って左の薬指から結婚指輪を外した。

そして目の前で手を差し伸べるバルフレアにそれを渡し、 プイと彼に背を向けた。

その様子を見つめていたバルフレアは

「そのうち返すさ。もっといいお宝を見つけたらな」

背を向けて不機嫌そうなアーシェに向かってバルフレアは静かな声で言った。

先ほどから2人のやりとりを見つめていたヴァンが、また、率直な疑問をバルフレアに投げかけた。

「なんだよ、もっといい宝ってさ?」

子供のように無邪気なヴァンにバルフレアは逆に質問した。

「・・・・さあな。見つけた時にわかるのかもな。ヴァン、お前なら何が欲しい?何を探している?」

「オレ?そりゃあさ、その・・・・」

口ごもるヴァンをよそに、仲間たちはガリフの里に向け、早々と部屋を出て行った。