あまい誘惑

ラモンの正体

 

バッガモナンたちをなんとか振り払ったヴァンたちは、魔石鉱を出ていくラモンの姿を追った。

そして、ラモンが歩いていく先に、先ほどのオンドーリ公爵とジャッジ・ギース、そしてパンネロの姿があった。

思わず、ラモンのあとをついていこうとするヴァンをバルフレアは制した。

 

「また供のものをつけずに出歩かれたようですな、ラーサー様」

ギースが”ラモン”に話しかけた。”ラモン”は、ギースの側に、不安そうな顔をして立っているパンネロに興味を

持った。

「・・・・1人で魔石鉱から出て参りまして・・・よからぬ連中の仲間ではないかと・・・」

「私はさらわれて・・・」

ギースの言葉に弁明するようにパンネロが言った。

「控えろ!」

すがるように”ラモン”に近づくパンネロにギースが怒鳴った。

そのギースに、彼得意の、大人をからかうような口調で”ラモン”は言葉を返した。

「・・・1人で出てくるのが疑わしいのなら・・・・私も同罪でしょうか?」

かつてバッシュを言いくるめた時のように、ギースも言葉に詰まっていた。

「ハルム卿、屋敷の客が1人増えてもかまわないでしょうか?」

”ラモン”の言葉にオンドールが

「ははあ」

とかしこまって頭を下げると

「ジャッジ・ギース。あなたの忠告に従い、これからは供のものを連れて行く事にしましょう」

”ラモン”はそう言うと、パンネロの手を取った。

「よろしく、パンネロ」

あ、はい、と気の抜けたような返事をパンネロはして、ぐいぐいとラモンに手を引かれ、遠くに姿を消していった。

 

それを見ていたヴァンが、面白くなさそうに口を開いた。

「なんで、パンネロが・・・・。何考えてるんだよ、ラモン」

「・・・ラモンじゃない」

血気盛んなヴァンをよそに、バルフレアは全ての推測が的中したのか、冷静な声で呟いた。

「ラーサー・ファルナス・ソリドール。皇帝の四男坊・・・ヴェインの弟だ」

ヴァンはますます顔を上気させ、悔しそうに言った。

「あいつ・・・」

そんなヴァンを微笑ましく見つめながら、余裕たっぷりのフランが口をはさんだ。

「大丈夫。彼、女の子は大切にするわ」

そう言ったフランの隣で、バルフレアは満足そうに腕を組み、

「フランは男を見る目はあるぜ」

と、補足した。

つまり、自分を相棒に選んだフランは男を見る目がある、と、自分をよいしょする発言でもあった。

ずっとその様子を見ていたバッシュは、まずはパンネロの救出を最優先に考えたようだ。

「オンドールの屋敷だな・・・問題は、どう接触するかだ」

バッシュの問いかけに、バルフレアは、オンドールが実は帝国寄りな顔を見せつつも、反帝国組織に金を流してる

線を利用して、公爵邸に近づく方法がないかと、提案するのであった。

彼は、ラーサーの事を始め、オンドールの本当の顔も全て推測できているようだった。

 

その頃、オンドール公爵邸の客間では、パンネロの前でラーサーが何やら忙しそうに文書を作成しながら、

今まであった事を説明している最中だった。

「ヴァンは元気なんですね・・・」

ひとまず安心したようにパンネロは呟いたが、自分がこのあと、帝国に連行されてしまうことへの不安を隠せない

ようだった。

「・・・ヴァンとはすぐに会えますよ。それまでは、僕があなたをお守りします」

パンネロからすれば、ラーサーは随分と幼く見えたし、彼が自分を帝国から守る術などあるのかと正直、信じる事は

出来なかった。 そんなパンネロの深層心理を察してか、ラーサーはペンを置

きパンネロの前にひざまずいた。

「それにしても、ラバナスタに滞在している帝国軍はやり過ぎのようですね。僕から執政官に話をしておきます」

パンネロはさらに驚いた。こんな子供が執政官に何を話が出来るのだろう・・・・

ラーサーは、自分が無力な子供扱いをされても当然、とやや自嘲したが、

パンネロを安心させるように真実を話す事を決意していた。

「・・・ヴェイン・ソリドールは、僕の兄です」

彼はまっすぐとパンネロの目を見て話した。その瞳がとても誠実だったので、パンネロの疑念は晴れていった。

「執政官の仕事はダルマスカの安定を守る事。そして兄はどんな仕事もできる人です」

兄を信じて止まないラーサーは、ヴェインがいずれラバナスタをよくする事を疑う事を知らないようだ。

パンネロにヴェインの素晴らしさを語って聞かせていた。

しかしパンネロは、沈んだ表情をしていた。

「あの人、怖いんです」

あの人とは、兄、ヴェインの他誰でもなかった。

そう、理解したラーサーは パンネロの意外な返答に、我が耳を疑った。

パンネロは構わず続けた。

「すいません、お兄様の事を・・・・でも、あの戦争で傷ついた人がたくさんいて・・・私も孤児です」

「帝国が、怖いのですね」

聡明なラーサーはすぐにパンネロの不安を理解した。

「パンネロさん、ソリドール家の男子は人々の安寧に尽くせ、と教えられて育ちます」

おそらくそれは、4代続けて皇帝を輩出してきた英雄の家柄ソリドール家が、 皇帝の血筋を守るために、

産まれてきた男子に帝王教育をしてきたことが ラーサーにも息づいているのだろう。

ラーサーはソリドール家の血統として教育を受けてきた事に誇りを持っているようだった。

「・・・・あなたを守るのも、僕の仕事のうちなんですよ」

ラーサーは力強く語った。

「・・・信じていいんでしょうか」

帝国、と言う言葉がパンネロの目を曇らせてきたが、 それ以前に、ラーサーには1人の人間として信用できる何が

あった。

パンネロは、それを信じようと思いはじめていた。

ラーサーはさらに続けた。

「僕の名誉にかけてお守りします。兄もわかってくれます」