あまい誘惑

地下牢大脱出

そこは兄、レックスの病室だった。

外からの採光で白い壁が一層目に眩しい。ヴァンはレックスにガルバナの花を差し出した。

レックスに表情はない。

ヴァンのことも認識出来ない。

彼は国王の暗殺者として拘束された後、厳しい尋問と、証言を引き出すための薬物投与によって

人格を破壊され、廃人となってしまっていた。

ヴァンはただなす術もなく兄に問いかける。

兄さんは、本当に王様殺しの一味だったのかい・・・?

ヴァンの目の前で、兄の幻影は光りの中に溶け込んでしまった。

 

ヴァンが、兄レックスの夢から覚めると目の前にバルフレアがいた。

「気づいたようだな」

バルフレアが言った。

ヴァンは起き上がり、歩き出そうとすると何かにつまずき転びそうになった。

足元に、バンガの死体が横たわっていた。

そうか、捕まった後、牢獄に入れられたんだな。

フランの姿はない。

バルフレアは、フランは抜け道を探しにいったと言うが、牢獄に抜け道なんかあるのだろうか?

しかしバルフレアはフランを信じて止まないようだ。

 

やがて奥の方で悲鳴が聞こえた。

ヴァンが何事かと飛び出そうとすると、バルフレアは「巻き込まれるのがオチだ」とヴァンに警告した。

ヴァンは耳を傾けず、悲鳴のする方に足を進めた。

シーク族のチンピラがよってたかって弱った囚人を襲っている。

いても立ってもいられなくなったヴァンは思わず暴行を止めに入った。

しかし相手は3人。

武器も防具も持たないヴァンが一人で勝てるだろうか。

そこへバルフレアが助っ人に入った。 2人は協力してシーク一味を退治した。

 

その騒ぎに気づき、帝国兵たちが牢獄に駆けつける。帝国兵の中にジャッジの姿もあった。

帝国を支配するソリドール家の武装親衛隊、帝国軍の実質的な指揮官と言われるジャッジがなぜこんなところに?

バルフレアはことの重大さに気づいた。

タイミングよく、抜け道を感知したフランが戻ってきた。

出口は独居房にあるらしいが、扉は魔力に封印されているという。

バルフレアは、ジャッジたちが出口の外に出る時に、

どさくさにまぎれて脱出するチャンス!とばかりに早急にその場を離れた。

 

帝国兵を倒しながら、3人は独居房へ近づいていった。

独居房に入ろうとすると、中から人の話し声が聞こえる。

ヴァンはそうっと中を覗き込んだ。

宙に吊るされた檻の中に、ヒュムが拘束されている。

そこには、常にダルマスカ兵を指揮していた男、兄レックスが尊敬して止まなかった名将バッシ

ュ・フォン・ローゼンバーグの姿があった・・・。

ひどくやせ細り、身体は新しい傷と古い傷とが混在し、顔は腫れ上がっている。

彼がこれまで目を背けるてしまうような拷問を受けてきたことを物語っていた。

彼の前に先ほどのジャッジがいた。

ジャッジと囚人との会話でその拘束された囚人が、処刑されたはずのバッシュであることをバルフレアは確信した。

 

ヴァンの心に怒りがわき上がった。

抑えることなんか出来ない。

兄をさんざん苦しめ、卑しめた男が、生きて、今、目の前にいるのだ・・・

 

ジャッジが独居房を去ると、3人は出口を探すべく、バッシュが拘束される檻の側に近づいて行った。

フランが言うには、この下からミストの流れを感じ、外に通じているらしい。

ここから開放してほしいと懇願するバッシュに、バルフレアはこれ以上面倒に巻き込まれるのはまっぴらと、

無関心を装い、どうやって下に下りるか模索する様子だった。

しかしヴァンは冷静ではなかった。

今までこらえてきた憎しみがいっきに爆発し、バッシュの檻に飛びついて行った。

「お前のせいだ!」

その声が、広い独居房にこだまのように響き渡ってしまったので、バルフレアはヴァンを止めに入った。

しかし、すでに遅く、声を聞きつけた帝国兵が独居房に近づいてくる足音が聞こえた。

フランは、ためらいもなく、この檻とともに下に下りようと、バッシュの檻のレバーを引いた。

しゅるしゅると、檻と、それにしがみついたヴァンが地下深くに落下して行く。

「・・・空は遠いな」

バルフレアとフランは落下する檻に飛び乗った。