あまい誘惑

王女救出

ラバナスタでは、ヴェインがリヴァイアサンの入港を待ちわびていた。

彼にはある目的があったのだ。

「黄昏の破片」

どうしてもそれが欲しかった。

そして、その手がかりを握っている人物がリヴァイアサンに搭乗しているのだ。

そんなヴェインのところへ、ガブラスが現れた。

ヴェインは、敗戦後のラバナスタの復興ぶりに懸念を抱いていた。 それについてガブラスなりに

いろいろとかぎ回ったようだ。

「・・・現在、ラバナスタの反乱分子は孤立しておりますが、今後、外部勢力から支援を受けると厄介です」

ヴァインは興味深そうにガブラスの方に身体を向けた。

「・・・・特に、ビュエルバの反帝国組織は、不自然なほど資金が豊富です。

やはりオンドール候が背後から糸を。 オンドールを押さえるべきです」

ガブラスの思惑を聞いて、ヴェインは苦笑まじりに言葉を返した。

「ところが、彼から連絡があってな」

そう言って、ガブラスに封書を渡した。

「檻から逃げた犬を捕らえて、ギースに引き渡したそうだ」

「犬」とは、バッシュのことだった。 このすべてがオンドールの打った「先手」だった。

もしも、バッシュが生きていることを陰謀者のヴェイン本人から持ちかけられたら オンドールは脅迫される。

しかし、もしも、自分からバッシュが生きていたことをヴェインに持ちかければ、

オンドールはヴェインの「陰謀」の手の内を悟ったことを知ったことになる。

あえてオンドールが自分からバッシュを差し出したのは、ヴェインを牽制するためだった。

ヴェインはすでにオンドールを脅迫する「切り札」を失っていた。

そんなヴェインに向かって、ガブラスは

「バッシュを殺すのは自分だ」

と言い放った。

 

ラバナスタに向かうリヴァイアサンでは、拘束されたバッシュたちがギースのもとへ 連行されたところだった。

乱暴に発着ポートに連れて来られたヴァンたちは、そこで「アマリア」の姿を見た。

相変わらず、きつくて悲しそうな表情をしてるな・・・とヴァンがアマリアを見つめるや否や、

アマリアはバッシュの姿に、さらに表情を険しくし、いきなりバッシュの頬を叩いた。

バルフレアとヴァンは顔を見合わせた。

「なぜ生きている、バッシュ!よくも私の前に」

悲鳴のような声でアマリアは言った。

その様子を満足そうに見つめていたギースは、少し馬鹿にするような口調で喋りはじめた。

「君たち、いささか頭が高いのではないかな。

旧ダルマスカの王女、アーシェ・バナルガン・ダルマスカ殿下の御前であるぞ」

ヴァンはさらに驚いて、再び、同じく驚いているバルフレアと顔を見合わせた。

非常事態だが、何やらバルフレアは含み笑いをして、珍しそうにと王女を見つめていた。

ギースは、そんなアーシェに対し、

「もっとも王女の身分を証明するものはないのでね」

と言って、ヴェインがアーシェに協力を要請していること、 協力を拒否した場合には証拠もなく王家の名を掲げ、ダルマスカの安定と治安を揺るがす者には死刑をあてがわれることを警告した。

「誰がヴェインの手先になど!」

吐き捨てるようにアーシェが言った。 そんなアーシェを制するようにバッシュが口を開いた。

「亡きラミナス陛下から預かったものがある。万一の時には、私からアーシェ殿下に渡せと命じられた。

ダルマスカ王家の証 『黄昏の破片』 殿下の正当性を保証するものだ。私だけが在処を知っている」

はじめて明かされた真実にアーシェはさらに厳しい表情で怒鳴った。

「待て!父を殺しておきながら、なぜ私を!生き恥をさらせと言うのか!」

「それが王家の義務であるなら」

バッシュは、アーシェの気持ちがよくわかっていた。

アーシェは帝国に身を売るくらいなら、帝国により処刑されることが 王家の誇りを守ることと、自らの死の覚悟を

決めていたのだ。 しかしダルマスカに忠誠を誓った騎士、バッシュには、国王の死はあり得なかった。帝国に利用

されることを避け短絡的に死を選ぶ道より、生き延びることこそ王国復興の第1歩だと、 それが彼の考え方だった。

アーシェが死を望んでいることはヴァンにもわかった。 そして、彼女の処刑は自分たちの処刑にもつながる。

それが彼には耐えられなかった。

「いい加減にしろよ!お前と一緒に処刑なんて、嫌だからな」

アーシェが傷ついているのはわかっていた。 しかし、それが彼の本心だった。

「・・・・・黙れ!」

アーシェがそう怒鳴ったとき、ヴァンが隠し持っていた女神の魔石が怪しく光りはじめた。

「ヴァン、それは・・・」

バッシュが驚いて言った。

そうだった。

この魔石は、ガラムサイズでアーシェと初めて会った時にも、こうして怪しく光ったのだ。

ヴァンは信じられない、と言う顔をした。その後ろにいるバルフレアもそのときやっと、ガラムサイズでなぜ魔石が

アーシェに反応したのか そのとき初めてわかった。

あれは、ダルマスカ王家の証、黄昏の破片だ。

魔石がアーシェに反応して当然だったのだ。

彼女が余りにも王女らしからぬ気の強い風情をしているので、さすがのバルフレアも見破ることが出来なかった。

まったく、なんて女だ。このオレの目を欺くとは・・・

彼は、非常事態なのに、笑いが止まらぬ様子だった。

それを見てギースは高笑いをしていた。

「けっこう!もう、用意してありましたか。手回しのよいことだ」

ヴァンから魔石を横取りしようとするギースを見て、 アーシェは泣きそうな顔をして叫んだ。

「やめなさい!」

しかし、バルフレアとフランはヴァンに、魔石をギースに渡すようにと、促した。

生き延びるにはその方法しかないことはヴァンにもわかっていた。

「約束しろよ。処刑は無しだ」

そう言って、ギースに魔石を渡した。

ギースは満足そうな笑みを浮かべ、立っているのが精一杯、というアーシェを独房に連行するように兵士たちに命令

した。 アーシェは、しかし、精一杯の王女の威厳を保ち、発着ポートから姿を消した。